ネットに置いてけぼりにされる/自分で解題「仙台発ローカルメディア最前線(3)」

目の前で起きつつあるメディア的な事例の数々を自分なりに可視化しようと考えたのが「仙台発ローカルメディア最前線」の発想の出発点でした。

拙著に登場してくれた多くのみなさんは、新聞や新聞社との関係で存在しているわけではありません。だから、彼ら彼女らの思い、アイデア、行動を「新聞」との関係だけで表現されるのは、不十分であり、迷惑なはずです。実際にお読みいただければ分かりますが、それぞれの事例の迫力と、それを支える発想はそれ自体で刺激的で、将来のメディア世界のありように重要な示唆を与えてくれています。紹介するに足ると強く確信しています。

足かけ3年に及ぶ取材の過程ですぐに気付いたのは、ある特定のメディアの中に身を置き、自らの立ち位置から展望するだけでは、たとえば、ソーシャルメディアの将来一つ見えてこないことでした。その意味で、地域に展開しつつある事例の数々について時間をかけて取材する作業自体、自分の立ち位置をあらためて確認するための、非常に重要なステップとなりました。

加えて、幸運にも「未来ビジョン」と名付けられた企業戦略の開発手法に出合い、その実践者である企業家・専門家の議論と実践の端っこに加えていただきました。新聞を含む地域メディアの「未来ビジョン」を手繰り寄せるための実験を個人的に始めたようなものです、

地方新聞社という小さな、小さな世界に長い間、身を置いて、いつの間にかメディアの将来を考える資格を得たつもりになっていました。長い間、地元では無敵の新聞社の枠内で考え、実践するうちに身に着いてしまった「癖」や「ほこり」のようなものをいったん洗い流すには、それなりに時間がかかるようです。

「仙台発ローカルメディア」の最前線について、元地方紙の記者として分析し、展望めいたシナリオを考えるのは自分自身が現時点で意識している大テーマですが、その答えは、古巣の地方新聞社をはじめとする業界の記憶の中には見つかりません。

地方新聞社在職中に蓄積した紙のメディア(新聞)とインターネット&デジタルの観点は、既に過去のことであり、ほとんど役には立たないと思われます。悔しいけれど、ネットとデジタルの世界の足の速さは、インターネット草創期の迫力をはるかにしのいでいます。

かつて米国で取材に応じてくれた地方新聞社の人たちの顔が浮かびます。彼らの中には、ネットとデジタルが、あっという間に慣れ親しんだ世界を吹き飛ばし、歓迎しない配置転換やリストラを経験していました。日本からわざわざ訪問する記者を受け入れるぐらいの人たちは、ほとんどが前向きな人たちでした。

新聞社を解雇された後、地元大学のメディアプログラムに参加し、覚えたばかりのiPadを駆使して取材にこたえてくれた人は快活でしたが、それまでの日々に味わった苦しみ、迷いはさぞや大きかっただろうと思います。

自分を育ててくれた古巣の人たちのためにあえて書いてしまえば、ネットやデジタルにうまく対応できない結果、新聞の現場の人たちがやがて味わうことになる「恐怖」や「不安」をイメージしてみてほしい。それを予感できない人には、メディアの展望を語る資格はありません。「仙台発ローカルメディア最前線」には、そんな思いをちりばめてあります。ぜひご覧ください。

新聞のこと、そして「地域」と「ネット」の掛け算/自分で解題「仙台発ローカルメディア最前線(2)」

電子書籍とPOD出版の提案を受けた際、テーマを「地域メディア」にすることはすぐに決まりました。河北新報社という地方新聞社で40年も過ごした経験を土台に、地域メディアが目指すべき方向について、少しは有効な指摘や提案ができればいいと考えました。ただし、幾つかの注意すべき点がありました。

最も重要なのは、地方新聞社に関する限り、新聞社が置かれている状況はすべて異なるため、すべての新聞社に共通する回答や打開策はまずありえない点でした。

地方新聞社はそれぞれの地元では一国一城の主です。地方新聞社同士は競争関係にないので、たとえば九州の新聞社の取り組みを東北でほとんどそのまま使い回すやり方でも、ある程度の成果を導き出すことは可能でした。振り返って見れば、それは新聞ならではの夢のような話でした。

一方、ネットやデジタル環境は社会全体の変容を迫っています。縄張りにも似た地理的な境界線を設定し、自社の利益を守る発想自体、通用しません。新聞時代のように、いずれかの新聞社が開発した手法を参考にしようとしても、二番手は二番手、フォロワーはフォロワーです。先行者利益をがっぽりとられた後の残りかすを求めることになりかねません。

地方新聞社のネット&デジタル戦略のかぎは、地方新聞社固有の地域的な特色とインターネットがもたらすさまざまな変数との掛け算にあるというのが拙著の立場です。地方新聞社がよって立つ、固有の地域社会とともに自ら変わることを恐れず、さまざまなプレイヤーとの連携を大胆かつ多様に進めなければなりません。

繰り返しになりますが、すべての地方新聞社に通用するお仕着せや幕の内弁当のような手軽な解決策はありません。だからこそ、よって立つ地域との連携やインターネット&デジタルの特性を生かすための人材や技術の蓄積が求められます。

その意味で友人の一人が拙著について「生煮えだ」「85点だ」と言ってくれたのは、非常に正確な受け止め方でした。もちろん、「生煮え」状態を少しはましな提案に育てるべく今もあれこれ取材し、多くのプレイヤーたちと議論しています。そのステップは一般論ではなく、新聞社ごとに設定されなければお話になりません。地域に立脚するメディアのありようをインターネットやデジタルに重ねて考えるときの、面白くて苦労しがいもあるポイントです。

もう一つの観点があります。あいにくなことに、地方新聞社の多くは外部の指摘や評価に耳を傾け、自ら変わる準備がまだできていないように見えます。だから、外部の人間が何を言っても「中の人」には届かない。つまりは、あと15点を追加する資格があるのは、それぞれの新聞社の「中の人たち」なのです。

特にネット&デジタルへの対応をひたすら避けてきた編集部門が依然として「新聞」に逃げ込もうとする限り、これからの時代に対応するのは不可能です。拙著でも、長い間お世話になってきた研究者や企業家の力を借りながら「中の人」に気付いてもらうためのメッセージを送り続けています。少しでも関心のある方はお目通しください。

新しい価値としての「ニュース」/自分で解題「仙台発ローカルメディア最前線(1)」

電子書籍とPOD出版を組み合わせた拙著のタイトルに「ローカルメディア最前線」を入れている理由は二つあります。

第1に、文字通り仙台を中心とした地域メディアの新しい動きに注目しています。既存メディアの動向には一切、触れていません。無視しているわけではないのですが、従来までのメディアの常識や前提ではとらえきれないような動きが確実に生まれている。だから、そのあたりをしっかり「見える化」しておく必要があります。地域を舞台とする新しい動きを仔細に追いかけると、既存メディア、特に筆者が得意とする地方新聞業界の常識とはだいぶかけ離れたところに存在していることが次第に分かってきます。

それらの事例は、既存の主流メディアにかかわっている一部の人たちの目にも触れているはずです。既存メディアの伝統や事業規模からすれば、「仙台発ローカルメディア」に登場する事例は、まるで微弱電流のようだと感じるかもしれません。そうした事例が存在する意味さえとらえきれていない可能性もあります。

しかし、そうした地域における実践の担い手たちに会い、話をすればするほどに、自分を育ててくれた既存メディアの問題点と、解決法がおぼろげながらにつかめるような気がします。拙著では、その解決法について、とりまとめることは、あえてしていません。素材としてしか提供していないので、ご関心のある人はぜひ目を通し、自分の頭で考えてみてください。歴史も背景も異なる地方新聞社を取り巻く事情を正確に踏まえなければ、本当の意味での解決法にはなりません。その意味で、既存メディアの「中の人」たちにとって、解決のための方法を外部の誰かに示してもらうことはもはや禁じ手に近いはずです。

第2に、長い間、ほとんど無意識に使ってきた「ニュース」という言葉が、インターネットやデジタル技術の発達に伴い、新しい意味や実践の現場を獲得しつつある点に着目しています。

「ニュース」といえば、これまでは特定の報道機関が多数の受け手に向けて届けるものでした。発信者と受け手が、いわば「1対多」の関係に立つマスコミュニケーションの形態でした。発信者はおおむねプロフェッショナルな職業者として登場しました。

しかし、インターネット、特にソーシャルメディアが社会の隅々に浸透するにつれて、ニュースの現場は、これまで考えてこなかった可能性と魅力に富むものになりつつあります。その可能性と魅力を無視するかぎり、ニュースの世界は、旧態依然の手あかにまみれたものであり続けます。これからのニュース世界は「インターネット社会」「デジタル社会」とともに拡大し、新たな価値を求めて、多様な当事者が活発、かつ柔軟に活動するステージとなりえるはずだ、というのが、拙著を支える理念のようなものです。

メディアプロジェクト仙台の公式ブログ…

メディアプロジェクト仙台の公式ブログ「Web日誌2.0」を更新しました。
「新しい価値としての「ニュース」/自分で解題「仙台発ローカルメディア最前線(1)」です。自分の作品を振り返るのは少し恥ずかしいのですが、あえて・・。

http://www.media-project-sendai.com/?p=1119

電子書籍とPOD出版の組み合わせ

新聞社在職時、共同通信社の技術支援を受けて電子書籍を発行しました。とにかく売れませんでした。新聞に広告を出しても、注文どころか問い合わせのメールもまったく届きませんでした。

電子書籍の市場自体、立ち上がったばかりだったし、もともとiPad専用の電子書籍だったので、販売に苦労することはある程度、予想していました。それにしても「わが新聞に、影響力がこれほどないとは・・」とがっくりきました。協力いただいた筆者にも大変な迷惑をかけました。「新聞読者とデジタルサービスの利用者の間には深くて暗い川がある」と、悔し紛れに言ってみますが、仕事人生、最大の失敗事例でした。思い出すたびに冷や汗が出ます。

今回の出版企画は電子書籍がメーンで、POD(プリントオンデマンド)、つまり、受注生産による紙の本の出版がサブのプランでした。自分名義の電子書籍が出たと伝えると「紙の本なら買うのに」と残念そうに言う友人、知人、親戚が予想以上に多いのに驚きました。20年近く、地方新聞社のネット部門を担当してきた関係で、いつの間にか紙の読者が遠くなっていたかもしれません。電子書籍と紙の本の双方にニーズがあるという、極めて当たり前のことにあらためて気付いた次第です。

もっとも、わたしたちが慣れ親しんできた紙の本に比べ、電子書籍は何と言っても後発の新規分野です。リリース後の周知一つにしても、確立した手法はないので、ソーシャルメディアなどを活用しながら筆者が自分の著作を育てていくアプローチが必要なようです。

さらに重要なのは、電子書籍のボリュームと紙の本にしたときのページ数の問題です。電子書籍版の「仙台発ローカルメディア最前線」は計算上、平均して1時間31分で読めることになっています。価格は700円。紙の本としては120ページで1200円の値段がついています。

スマホやタブレット端末で読むのに、ボリュームはどれぐらいが適当なのかは、経験がないので分かりませんでした。なるべく軽いボリュームにする方がいいだろうと思い、自分の原稿をネットで実際に読んでみて、大幅な削除と、必要な編集を繰り返しました。その結果、出版社に渡した原稿は、準備した原稿の半分ほどになりました。

さらに2か月後に出来上がった紙の本は、何となく抱いていたイメージとは違って、まるでポケット本か、少し厚めのブックレットのようなサイズでした。これならページ数をもう少し増やしたかった、と思いましたが、出版社の担当者に聞けば、PODの場合、価格は、100頁、おおむね1000円になるんだそうです。もともと140頁だったのを、編集上の工夫を加えてぎりぎり120ページ、1200円の価格に押さえたとのことでした。

POD出版で出回る書籍の中には5000円近い価格がついているものも数多くあります。価格は内容次第であるとは言え、あまり高いのは非現実的です。その点、実績もない無名の筆者が出版するに際して、1時間半程度で読める電子書籍とポケット版1200円という組み合わせは、ほとんどベストマッチに近いような気がします。読者の立場で言えば、価格が1000円ならもっとうれしい。

あまり言われないことですが、電子書籍が紙の本に比べて価格が安いのは、年金生活者にとっては朗報でもあります。ひと昔前と違って今のシニア世代は、PC、インターネット、スマホをよく使います。高齢社会ならではの、POD出版を組み合わせた電子書籍が多様に広がる可能性は高いように思うのです。

「仙台発ローカルメディア最前線」リリースから3カ月

 

 

まさか自分の名前が表紙にドカーンと載ることになるとは・・。電子書籍「仙台発ローカルメディア最前線」が2017年3月29日、アマゾンのKindle版として出ました。さらに普通の紙の書籍(POD版)として出たのが5月1日。自分名義の書籍がこの世に出てからほぼ3カ月が過ぎたことになります。電子書籍と紙の書籍の組み合わせによる出版の経験はなかなか面白く、デジタルと紙の出版の可能性をあらためて教えてくれました。「仙台発ローカルメディア最前線」で掲げたテーマも、その後の動きが速く、適宜フォローが必要です。このブログに新しいカテゴリー「仙台発ローカルメディア最前線」を設け、報告することにしました。Facebookでもお知らせします。お時間のある方はぜひお立ち寄りくださいませ。

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新聞社時代は、連載企画の担当になると、最後に出版という、おまけがつくことがありました。臓器移植医療や高齢化問題でかかわった取材が特に印象に残っています。数人の同僚とチームを組んだ作品ですが、どちらも米国取材を担当したので、思い出深い仕事となりました。

今回の出版は初めての自著です。株式会社デジカル(香月登代表取締役)さんにすべてお任せしました。デジカルさんの新ブランド「 PIONNIER」シリーズに参加させていただきました。「 PIONNIER」シリーズの理念を紹介します。

明るい未来を拓こうと動いている”先駆者(PIONNIER)”たちがいます
PIONNIER(ピオニエ)は最前線で躍動する先駆者たちの知見を、
デジタルコンテンツとしていち早く発信する場として生まれました

果たして自分の仕事がこうした理念にふさわしいかどうか、面はゆいところです。今後のフォロー取材も含めて、少し先に評価していただくとして、それ以上に驚いたのが表紙のデザインでした。案が届いてみると、鮮やかなオレンジ色に自分の名前がドーンと・・。驚きました。会社員暮らし40年の間にしみついた防衛本能が早速働き、尻込みしかかりましたが、待て待て、フリーになる時に、自分ブランドを何とかしないと、とてもやっていけないと決意したはず。ありがたくお受けしよう・・。と自分に言い聞かせるようにして出版にこぎつけた次第です。

電子書籍としての諸元は以下の通りです。

  • フォーマット: Kindle版
  • ファイルサイズ: 8555 KB
  • 出版社: PIONNIER (2017/3/29)
  • 販売: Amazon Services International, Inc.
  • 言語: 日本語

    (続く)

 

電子書籍と紙の書籍をリリースした体験…

電子書籍と紙の書籍をリリースした体験と、その後のフォロー取材の報告を始めました。メディアプロジェクト仙台の「Web日誌2.0」です。書籍についてのご質問やご指摘等は、Facebookで受け付けています。よろしければお付き合いください。

http://www.media-project-sendai.com/?p=1100

映画評論家で字幕翻訳家、齋藤敦子さん…

映画評論家で字幕翻訳家、齋藤敦子さんの第70回カンヌ国際映画祭報告(1)を東北発のニュースサイト「TOHOKU360」に掲載しました。齋藤さんが2008年から担当してきた河北新報社の映画サイト「シネマに包まれて」は更新が終了しました。バックナンバーはご覧いただけます。
http://tohoku360.com/cannes1/