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「メディアとアーカイブ」(松本恭幸【編】、大月書店)を読んで/メディアの主戦場「アーカイブ」

「メディアとアーカイブ」という本書のタイトルに強く惹かれた。というのも、いかなる種類のメディアであっても、日々の活動の蓄積として「アーカイブ」の問題を避けては通れないからだ。

必要なのは「行けばそこにあるはず」という意味での新聞社の古い資料倉庫的なアーカイブ観ではない。今やメディアにとって、アーカイブの生きた利・活用のフィールドを目指すことなしに、一切のビジョンを構築できない。

本書は「地域の情報環境整備」「地域からの情報発信と交流の場づくり」「地域の記録と記憶の継承」の3部構成。 地域からの情報発信の事例に詳しい 11人が執筆している。編集と執筆にあたっている松本恭幸さんは武蔵大学社会学部メディア社会学科教授。

新聞社や放送局が「いい紙面」「質の高い番組」づくりを目指すための環境づくりの点では、技術もソフトも、一定の水準をキャッチできる環境にある。読者や視聴者から見て、紙面や番組の出来に明らかな差が生まれるのは、もっぱらデジタル社会におけるメディアビジョンに関して、当事者たちの意欲と問題意識に差があるからだ。

インターネット草創期、経験値に乏しいための泣き言がメディアの現場から聞こえてきたものだ。今やそんなことは通用しないことぐらい、当事者なら分かっているはずだが、本書が、第2部で提示している「地域からの情報発信と交流の場づくり」の意味についてはまだまだ理解されていないかもしれない。「交流の場づくり」をメディアの在り方論と絡めて考えるには実に多くの論点をこなすことが必要だが、さまざまなメディアの運営者、取材者や編集者、営業職などとしてかかわる人々へのインタビューから始めてみてほしい。「なぜあなたはこのメディアにかかわるのか?」

本書で紹介されているすべての事例に参加・関与している人たちの肉声をすべて集め、分析できたら、「市民メディア」「地域メディア」にとどまらず、デジタル化の前に低迷逡巡している多くの既存メディアにとっての意味ある知見が得られるだろう。将来的なメディアビジョンを模索するための戦略的資源も得られるはずだ。

それぞれのメディアにかかわるすべての人々の参加理由を丹念に集約し、それぞれのメディアビジョンをリデザインを試みてはどうか。参加の機会、参加の場としてのメディアについて、薄ぼんやりながら浮かんできたのは、仙台・東北発の地域メディア「TOHOKU360」にかかわることを認めてもらったことがきっかけだ。

個人的な経歴で言えば、40年という長きにわたり、従来型メディアの典型である地方新聞社で多くの同僚らと仕事をしてきた。7年前に新聞社を完全に卒業してからは見よう真似の起業体験を経て、いまだに続いているのがフリーの取材者・編集者としてのふるまいだ。フリーになってなおダイアリーが真白になることもなく、取材者としての動きを続けていられるのは「TOHOKU360」に、かなり自由な雰囲気のもとで参加出来ているおかげなのだ。

詳細は関連するネットコンテンツを参照してほしいが「TOHOKU360」には「市民メディア」「地域メディア」としてのいくつかのポイントがある。そこを押さえつつ、若い編集者、取材者のみなさんと交流し、取材者としての関心を持続できている。既存メディアに身を置いているころは想像もできなかった、取材者としての幾つかの「メディア実験」も含めて、ジジイの暮らしとしてはかなり贅沢なように思える。

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