気になる低投票率の行方。自治体の力を反映?/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(5)

北嶋さんが「ひばりタイムス」について自ら説明している、素晴らしい動画コンテンツがあります。ぜひご覧ください。

「リスクマネジメントジャーナル」

https://youtu.be/Qz8M9pfA3dA

◆◆◆◆                      ◆◆◆◆

地域メディアを立ち上げる際の考え方や手法はさまざまあり得ますが、北嶋さんのように議会、行政への取材を入り口に地域の諸課題に迫るスタイルは、取材・編集などのメディア経験を生かしやすい環境でもあります。

「ひばりタイムス」の報道を通じて北嶋さんは、自治体行政や地方議会と住民の関係、特に各種選挙における低投票率に注目しています。

「ひばりタイムス」は2019年4月25日の配信で、2018年末に実施された西東京市議選の投票率について特集しました。それによると、西東京市議選の投票率は東京26市のうち最下位でした。

 「年齢別投票率は25歳が14.84%で最低、年代別でも20代が最も低く17.42%だった。全体の投票率36.84%は西東京市の市議選で過去最低。最高は77歳の58.44%となり、その差は43.60ポイントもあった。年代別では20代が最も低く17.42%、70歳以上が51.06%となり、33.64ポイントの差だった。高齢者が高いと言うより、若年層の低投票率が際立っている。18歳、19歳の10代は28.82%、30代は25.22%。40代も32.68%と全体の投票率36.84%を下回り、しかも3分の1を割る。関心が極めて低い現状が浮き彫りになった」

 

選挙の投票率は、国、地方を問わず、政治への関心や地域づくり・まちづくりへの参加意識の低さなど、多様な観点で論じられるところです。とりわけ最近、若者の政治参加を促すための選挙制度改革が実施されている中、西東京市の若い世代の低投票率の低さを目の当たりにすると、若い人たちに向けた選挙啓発のメニュー作りに傾きがちです。

これに対して北嶋さんは「投票率が低いのは「自治体の持っている力を、市民がその程度にしか感じていないからではないか」と指摘しています。

「(自分が暮らしている自治体の問題を)すごく大切だ、何とかしなければならないと思えば、関わろうとするはずです。実際は、自治体に関わらなくとも生活はできるし、何とかなる。国が法律によって最低限の保証をするからです。もちろん、足らないところは多いし、穴だらけでもありますが、全国共通のルールがまずあるわけです」

「国政は大事」という意識は誰もが持っているのに対して「自治体はまれに暴走することはあっても、まず大丈夫」という意識が強いと北嶋さんは感じています。

「大丈夫と思えば、無理して関わらないというのが選択肢としてせり上がってくるのは当然。だから今後も、一朝一夕に投票率が上がるとは思えません。自治体の裁量で取り組める範囲が増えて、独自にいろいろできることが見えてくれば別の話になるかもしれませんが、自治体の財源でも、一般財源の使途は限られています。単独事業は次々に廃止・縮小に向かっているし、職員もどんどん減っています。それでも仕事は増えるので、正規を減らして非正規を増やす以外にないのが現実です」

(次回に続く)

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事実を伝えることの難しさ。地域のリアリティを踏まえて模索/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(4)

地域報道メディアとして「ひばりタイムス」がカバーしている範囲は広範で、テーマも多岐にわたります。「ひばりタイムス」の設立以来、ほぼ5年。北嶋編集長が取り組んできた地域ライターのみなさんへの声掛けからネットワークづくり、報道メディアとしての試行錯誤について正確に論評できる人はほとんどいないかもしれません。

特に地域の諸問題と直に向き合うには、規模の大小を問わず、事実を正確に伝えるという、メディアにとって不可欠な前提をクリアする必要があります。既存のメディアで報道分野に携わった経験者なら誰もがためらう難問と言えるかもしれません。

「ひばりタイムス」の記事にはすべて署名が入っています。「書くことには当然、責任が伴います。公的な空間に書いた文章をさらすのだから、事実関係の確認は可能な限り念入りにやります。仮に、間違ったら即、訂正することを心掛けています。必要だったらお詫びもします。間違いを完全に防ぐことは難しい。5年間やってきて、一番の不安はそれです。自分が編集長として単純なミスをしないような、ある種、注意力を維持できるかどうかが、最大の問題です」

地域メディアとして地域に向き合うことの悩ましさについて北嶋さんは「自分の住んでいる地域で報道メディアを運営する場合、取材対象となる人々やそのニュースの影響範囲にいる人に出会う可能性が日常的に高くなります。事実確認がおろそかになったり、完全には避けえないミスが起きたりすればそれだけで『致命的』です」と振り返っています。

「たとえば、市の政策をめぐってものすごい反対運動が起きているとします。反対運動に取り組む側の事情に共感できる場合、それをニュースとしてうまく書くにはどうすればいいか。決して簡単ではありません。伝統的な報道の世界では、こうした微妙な事例をひとつずつ解決してきました」

北嶋さんが例に上げているのは、一方の主張に偏ることを避けるあまり、焦点がぼけ、ときには「つまらない」「物足りない」などの批判を受けてきた既存のメディアの伝統的な報道表現のことでしょうか。

「『ひばりタイムス』は、どちらの側にもよく受け止めてもらうということではなく、今の時点で、こういう進行だったよな、と落ち着ける内容になっているとともに、後から読んだ時に、なるほどそうだったのか、と、事態があまり歪まないような、参照に耐えうるような書き方をしたい」

「ひばりタイムス」に書いてくれるライターの人たちの「書きたい」「発言したい」というエネルギーは相当なものがあるそうです。しかし、北嶋さんは「わたしが講座なんかでよく言うのは、その言いたい、書きたいという気持ちをいったん自分の中にしまってほしい。今、起きていることをあなたたちの気持ちで、できるだけ淡々と描いてほしいということです」と話しています。

地域のライターたちとじっくり付き合っていると、プロの取材者でも気が付かない視点や表現の工夫が見えてきます。自分の言いたいことを書いて伝えるという仕事は特別に訓練されたプロの取材者たちだけに許された特権ではありません。

「何かを主張する、表現すると、どうしても摩擦を生みやすい。でもここは報道メディアであって、主義主張のためのサイトではありません。起こったことを可能な限り、起こったように伝える報道サイトです。もちろん記事を書くに際して、やむをえず、自分の気持ちをこめることがあるかもしれません。でも、初めから何かを『主張する』『表現する』場ではありません」

「ひばりタイムス」はウェブのほか、メールやフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアを活用しています。インターネットが登場して20年。ソーシャルメディアが発達し、文章や写真・動画をネットを通じて発信するだけなら容易になりました。実際の世界は残念ながらネットを悪用した中傷やデマが少なくありません。自分の立場を正当化することにしか関心がないように見える主張や論争も目立ちます。

「ソーシャルメディア時代は、伝統的な報道スタイルが潜り抜けてきた、制約、緊張条件がまったくなくなってしまって、書こうと思えば、何でも書けるようになってしまった。そこで逆にみんなが困っているのかもしれないですね」

ネットとメディアの組み合わせが生まれたばかりのころ、伝統的なメディアの運営者たちの関心は、当事者間の非難の応酬が爆発的に繰り返される、いわゆる「炎上」の問題に向かいました。ソーシャルメディアも発達した現在、新しいメディアを創設するには難しい問題も予想されます。
北嶋さんは「確かにソーシャルメディアの現状は、誰もがおもらしをしている状態」と笑いながら「それでも個人や個性を開花させる条件が整ったという風にニュートラルにとらえたい。ネットが登場する前の、ある種、秩序だった情報空間にはもう戻れないでしょう」と強調しています。

(次回に続く)

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市民ライターの「報告」と編集長の「記事」/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(3)

「ひばりタイムス」の記事を幾つか取り上げながら、北嶋編集長が日々実感している空気を想像してみることにします。

「ひばりタイムス」が日々、提供するニュースや情報について北嶋さんが作成した資料があります。「ひばりタイムス」の運営の一環として開かれた「市民ライター講座」で使われます。それによると、「ひばりタイムス」の記事は、市民ライターが書く「『報告』系」、北嶋さんが書く「『記事』系」に分かれています。両者の「『中間・折衷』系」もあり、やはり北嶋さんが担当しています。以下、北嶋さんの資料からの引用です。貴重なデータなのでほぼ原文通り引用します。詳細は「ひばりタイムス」でご覧ください。

市民ライターがそれぞれの立場で担当した主要な『報告』系の記事です。

・「なんでもあり」「まずはやってみよう」 やぎさわマーケット賑わいのヒミツ(2018年10月11日)https://www.skylarktimes.com/?p=16297

・今、忘れてはいけないこと― 西東京 非核・平和展に思う(2018年8月21日)

今、忘れてはいけないこと ― 西東京 非核・平和展に思う

・涙がこぼれる「子ども条例」誕生 紆余曲折の18年を振り返る

涙がこぼれる「子ども条例」誕生 紆余曲折の18年を振り返る

・国蝶オオムラサキが里山に育つ 日の出町谷戸沢処分場の見学会

国蝶オオムラサキが里山に育つ 日の出町谷戸沢処分場の見学会

・「ひとハコ図書館」など多彩な仕掛け 東久留米市の図書館フェス2018

「ひとハコ図書館」など多彩な仕掛け 東久留米市の図書館フェス2018

・「地域デビュー」はスープの味 「おたがいさま食堂」に初参加(2016年7月29日)

「地域デビュー」はスープの味 「おたがいさま食堂」に初参加

・「放課後カフェ」立ち上げの一歩 西東京市の「つどい」に市外からも(2017年9月26日)http://www.skylarktimes.com/?p=12006

 

取材者・ライターとして市民が参加する仕組みを採用する場合、ライターさんが自らの体験をルポ風にまとめる記事が多くなる傾向がうかがえます。ここでは市民がメディアに参加する場面の多様さを念頭に置けばいいでしょう。見たまま・聞いたままを書くスタイルは取り組みやすいうえ、体験記特有の現場感あふれる表現や、人によって異なる着眼点を味わえるのが魅力です。事実を事実として伝えようとする「報道系」の記事とはかなり趣が異なりますが、事実を簡潔にまとめるテクニックへの入門編としても面白いかもしれません。

 

「ひばりタイムス」の「記事」系のコンテンツは、報道経験のある北嶋さん自身が地域の諸課題を浮き彫りにし、解決策を探ります。主な記事は以下の通りです。

・「市民ニーズに対応する」職員像 西東京市の「課題検討型インターンシップ」(2018年8月26日)

「市民ニーズに対応する」職員像 西東京市の「課題検討型インターンシップ」

・弾痕残る「戦災変電所」一般公開 「西の原爆ドーム 東の変電所」(2018年4月12日)https://www.skylarktimes.com/?p=14654

・「ふるさとの新聞元旦号展」 小平市立図書館で開催(2018年1月8日)http://www.skylarktimes.com/?p=13538

・合言葉は「浮いて待て!」 着衣泳講習会で水の事故を防ぐ(2016年6月9日)http://www.skylarktimes.com/?p=6695

・ワンちゃんが走る、遊ぶ…  いこいの森公園でドッグフェスタ(2017年10月1日)http://www.skylarktimes.com/?p=12054

・コーチ処分は重すぎる 協会からパワハラ受けた 宮川紗江選手が記者会見(2018年8月30日)

コーチ処分は重すぎる 協会からパワハラ受けた 宮川紗江選手が記者会見

・色とりどりのハスの花咲く 旧東大農場の見本園で観蓮会

色とりどりのハスの花咲く 旧東大農場の見本園で観蓮会

・委員会審査の「議事録ない、録音、メモもない」 ごみ処理施設「柳泉園」の長期包括契約業者選定(2018年5月31日)

委員会審査の「議事録ない、録音、メモもない」 ごみ処理施設「柳泉園」の長期包括契約業者選定

・取材申請から事前チェック条項外す 東大・生態調和農学機構の施設(2015年9月6日)https://www.skylarktimes.com/?p=3888

・市施設の指定管理者に市長後援会長の病院(2015年3月26日)https://www.skylarktimes.com/?p=1926

 

【中間・折衷】系

・「田無ツツジ」を追いかけて 散り始めの花を惜しむ(2017年5月1日)http://www.skylarktimes.com/?p=10270

・1日の終わり、1年の締め 富士見テラスから夕陽をみる(2017年12月31日)写真が主http://www.skylarktimes.com/?p=13420

・ひばりヶ丘駅周辺に雪景色 積雪、除雪、融雪、残雪…(2018年1月23日)写真が主http://www.skylarktimes.com/?p=13636

・いまが見ごろのうめまつり 小金井公園で週末まで(2016年2月19日)写真説明を工夫http://www.skylarktimes.com/?p=5518

・「好き」と「楽しい」が導きの糸 ドリーム・ウェスト・ウインド・オーケストラの10年

https://www.skylarktimes.com/?p=11144

・この台を見よ! 買い物後の一工夫

この台を見よ! 買い物後の一工夫

 

(次回に続く)

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メディアOBがメディアを立ち上げるとき/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(2)

共同通信のOBでもある北嶋孝さんのお話をうかがいながら真っ先に思いついたのが「メディアOBが自分でメディアを起こす時」というコピーでした。でも、「ひばりタイムス」の紹介ですべてを語るにはあまりにテーマが大きすぎるような気がしました。

ほとんど20年ぶりに再会できた北嶋さんに過剰な負担を強いてもいけないので、最初はごく普通の事例紹介にするつもりでしたが、実際に1回目のブログを書き、お知らせ用に運営しているフェイスブックページで周知してみると、特にメディアOBのみなさんの関心が高いことが分かりました。そこで、少し軌道修正して、メディアOBがメディアを立ち上げる際に参考になりそうなポイントに絞り込んで取り上げることにしました。

「ひばりタイムス」を立ち上げるにあたって北嶋さんは、ほぼ5年分の運営費を蓄えることから始めています。「記事を書いてくれた人には1本あたり1000円を支払います。自分では何も受け取りません」

必要なサイト運営費については、あえてお聞きしませんでしたが、報道サイトを立ち上げるにはシステムの開発やデザイン費がかかります。これはお金のかけようです。「ひばりタイムス」の場合、もともと技術に強い北嶋さんがシステム開発を自分でやったそうです。サーバーのレンタル費もサービスによってさまざま。一般的な大手サービスでも年間5000円程度からあります。

「頑張っているね、とよく言われますが、そんなに力を入れているつもりもありません。できる範囲でできる限り長く続けられれば」

「ひばりタイムス」がメーンの取材地域としている西東京市とその隣接地域は、他の大手メディアの支局等がありません。米国ではインターネットメディアの発達に伴い、資金面で苦戦した既存の新聞社が取材エリアを縮小しました。その結果、「報道の空白」が生じ、汚職などの不祥事や犯罪を監視する力が弱まったと言われたものです。

「ひばりタイムス」を立ち上げたのも「報道の空白」を意識した結果かどうか水を向けると、北嶋さんは「従来のメディアの在り方をそのまま延長すると確かに『報道の空白』というくくり方になります。でも、西東京の場合、たとえば、地方の自治体の日常の仕事、議会の在り方について、どのメディアが報道してきたかというと、どこも報道してきませんでした」と指摘します。

西東京にとって「報道の空白」現象は最近始まったことではないということなんでしょう。「従来からずっとそうでした。なぜかというと、ニュース価値が低いからです。まれにしか、ニュースにできることがないからです。おそらく、日常的にウォッチしても、他の地域の人たちや、今、ここに住んでいる人たちが『面白い』『大切だ』と思えるニュースが本当に少ないのは確かです」

「ひばりタイムス」の日々の活動は、従来から「報道の空白」だった地域に、あえて報道メディアを立て、地域メディアとしての実験を続けているようなものかもしれません。何事も手探り状態の中で北嶋さんは「(従来)マスコミが培ってきたニュースの価値観やセンスで測ると、かなりズレる部分、足りない面が出てくる」のではないかと考えています。

「ニュースへのアクセスでみると、記事の性格によって極端に差が出ます。全市的に影響のある記事よりも、限られた地域イベントの記事にアクセスが多くなります。顔見知りの世界、フェイスブック的なつながりの集団により関心が高いのではないでしょうか。ただし、ひばりタイムスに、その種の記事は多くありません。そこまで地域に食い込んではいないのです。これまでの記事作法ではカバー仕切れないと感じています」

地元密着型のメディアを立ち上げ、運営してきた北嶋さんの言葉は、型にはまったものではなく、インタビューする側に、絶えず考えることを強いるものでした。「ひばりタイムス」の創設者であり編集長である北嶋さんは、今でも、市議会の本会議だけではなく、重要な委員会審議等にも出向くそうです。毎日、どんな風景を見て、何を考えているのでしょうか。

(次回に続く)

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自然体で地域のテーマを追う/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(1)

「週刊ひばりタイムス」のトップページ

通信社OBが70歳になってから立ち上げた地域密着型の報道メディアだと聞いて、創設者で編集長の北嶋孝さん(75)に話を聞きました。西東京市とその隣接自治体を中心に、もっぱら地域ニュースを扱う「ひばりタイムス」。その名前からは、はるか高い天空のどこかで鳴く「ヒバリ」を連想しましたが、北嶋孝さんの言葉からにじみ出るのは、大手メディアがカバーし得ない地域の出来事に密着し、自分の出来る範囲で、地道にしっかり伝えたいという思いです。

「ひばりタイムス」はメディア本体であるウェブのほか、週刊でメールマガジンを発行しています。フェイスブック、ツイッターなど、ソーシャルメディアを活用することで、「ひばりタイムス」の知名度アップや提供するニュースの拡散を狙っています。週刊ひばりタイムス第210号(2019年5月16日)から主なニュースを引用します。

●617日から移動支援の実証実験 地域説明会始まる。
 公共交通の空白・不便地域となっている西東京市の南部地区で、タクシーを活用した移動支援の実証実験が6月17日からスタートする。期間中は農産物と鮮魚の移動販売も同時に実施する。
これらの概要を対象地域住民に説明する会合が5月14日から始まった。最初の説明会は14日、南町2丁目の南部地区会館で開かれた。
都市計画課の説明によると、実証実験の期間は6月17日から9月28日までの3ヵ月余り。対象になるのはおおむね、向台町1丁目、南町2丁目、柳沢2~5丁目の住民。65歳以上、妊娠中、世帯に3歳未満の子どもがいる人が申請して利用者カードを取得すればタクシーに乗れる。
(以下、略)

 ●西東京市教育の重点4施策決まる 「時代の変化に対応した学習環境の整備」を新規追加
 西東京市の総合教育会議が5月14日に開かれた。2019年度の教育重点施策は、これまでの「いじめ・虐待の対策」「切れ目のない支援」「子どもの居場所の充実」の3項目を継続し、あらたに「時代の変化に対応した学習環境の整備」を追加した。
新施策となった「学習環境の整備」は、学校施設の老朽化に対応するとともに、将来的な児童・生徒数を分析して学校施設や学区域の課題を整理し、施設の複合化や小中一貫教育などの視点を含めて検討する。このため教育関係者、保護者、地域住民、学識経験者らによる「学校施設の適正規模・適正配置検討協議会」を設置し、来年初めに予定される報告書の提出を待って市の整備計画を取りまとめる方針。

総合教育会議は法改正によって、市長と教育委員会が協議、連携して教育施策を総合的に推進するために設置。2015年4月に第1回が開かれ、毎年重点施策を決めてきた。

●田無駅ペデストリアンデッキでミニライブ 西東京市芸術文化振興会が5月12日に
 一般社団法人西東京市文化芸術振興会(海老澤敏会長)は5月12日、西武新宿線田無駅のペデストリアンデッキを舞台に、「ペデライブ」と名付けたミニ演奏会を始める。今回は「第0回」と呼ぶプレライブ、いわばお試し版。この経験を9月予定の第1回に生かし、市民主体のライブ演奏会を定期的に開き、地域の賑わいと地元への愛着を育てるのが願い。小さな舞台から、夢が羽ばたく試みとなる。

◆         ◆

「ひばりタイムス」の趣旨に賛同する地域のライターが書いたニュースや特集・連載があります。議会や行政の動きを取材するなど、一定の経験を要する分野や問題については北嶋さん自らが担当しています。自分の立場や考え方をアピールする場ではなく、あくまで地域で起きた出来事をなるべく忠実に伝える報道メディアとして活動しています。

誰もが利用できる「これからカレンダー」を準備しています。地域住民が関心を持ちそうな予定を伝えることで、地域に役立つメディアを目指しています。

北嶋さんは共同通信社を定年前に卒業した後、地域の演劇活動を支援するメディアの編集に10年携わりました。70歳になってから西東京市と隣接自治体をカバーする地域報道メディア「ひばりタイムス」を立ち上げました。2015年2月のことでした。

「誰が読んでも楽しいイベント情報は、いろいろなメディアに掲載されるので、自分は地元の自治体や議会にしっかり足を運ぼうと考えました。インタビューしたいので市長に合わせてほしい、と西東京市の広報にお願いするところから始まりました」

西東京市は東京の多摩地域東部。旧田無市と保谷市が2001年1月21日に合併して誕生しました。人口は20万3千人。大手メディアは取材拠点を置いていないので、ウェブやメール、ソーシャルメディアを駆使する「ひばりタイムス」だけが事実上、地域と向き合うメディアとなっています。

通信社を卒業後、自分の住む地域に目を転じ、地域に根差した演劇活動を支援するメディアからローカルに根差した「ひばりタイムス」の立ち上げへ。振り子にたとえれば振れ幅の大きい歩みです。新聞社や放送局を卒業したOBたちにとっても、参考になる事例といえるでしょう。

「ひばりタイムス」は、主に編集長の北嶋さんが取材するほか、地域の諸課題に関心を持つ有志がライターとして参加しています。メディアとしての特徴について北嶋さんは「目の前で起きていることを淡々と伝えたい。主義主張のためのサイトではありません。起こったことを出来るだけ忠実に伝える地域報道メディアです」と説明します。

以下、「ひばりタイムス」の公式メッセージからの引用です。

ひばりタイムスは、西東京市や近隣で起きた出来事、住民の活動を伝える地域報道サイトです。住民の生活と経験を大切に、マスメディアの網からこぼれ落ちがちな暮らしのニュースを伝えます。住民が互いに交流し支え合って暮らす、これからの地域作りに欠かせない要素だと考えるからです。

ひばりタイムスは、地域のイベントや予定を提供する情報メディアです。市役所や議会の審議会、委員会の日程などのほか、講座やセミナー、集会など住民活動の予定を掲載します。自主的に学び楽しみ、地域を作るツールとして活用できるように心掛けます。

ひばりタイムスは、西東京市在住の有志が始めました。いずれも在京報道機関の記者経験はありますが、地域事情は手探り状態です。住民自身が地域の出来事を発信、報告、記録できるような態勢を整え、地域の報道主体として信頼されるメディアをめざします。

ひばりタイムスは本体のWebサイトのほか、メールマガジン、facebook、twitterなどを利用して、総合的にニュースを発信します。

ひばりタイムス編集長 北嶋孝

(次回に続く)

多様な自社制作軸に地域と歩む/コミュニティ放送局「エフエムたいはく」の場合(上)

【写真】百万都市仙台の副都心。長町地区に拠点を置くエフエムたいはく。大小2つのスタジオから番組を配信する。生番組はここからほど近い場所にあるサテライトを使っている。

地域密着と市民参加を掲げているコミュニティ放送局(FMラジオ)を聴いたことはありますか?大手のラジオ放送に比べて電波が届く範囲は狭いのですが、インターネットを利用できれば世界中どこでも聴けるようになっています。最大の特色はいわゆる自社制作番組です。地元の人々が進行役(パーソナリティ)を努めるせいか、親しみやすさに満ちた空気感が伝わってきます。百万都市仙台の副都心といわれる長町地区にスタジオを持つ「エフエムたいはく」を訪問しました。

仙台市太白区の人口は22万6千人。仙台市の総人口のほぼ5分の1を占めています。エフエムたいはくは長町3丁目、国道4号沿いにありました。近くにはJRや仙台市地下鉄、市バスの駅があります。長町駅に直結する再開発ビル「たいはっくる」には、地域文化の中心となる多目的ホール「楽楽楽(ららら)ホール」があります。仙台市立病院のほか、建設中の高層マンションや大型商業施設もあり、江戸時代からのまち並みを残すユニークな副都心として急成長している地域です。

 

【写真】自社制作の番組が多いため一面緑色のタイムテーブル

エフエムたいはくは2007年9月29日に開局しました。「エフエムたいはくの1週間の番組を制作形態ごとに色別に並べた「タイムテーブル」は、自社制作であることを示す緑色一色に見えます。他の放送局と比較する目安はないのですが、エフエムたいはくの自社制作率が高いのはひと目で分かります。

 

エフエムたいはく開局直後は、出演者に決まった謝礼を支払うケースもありましたが、コミュニティ放送に共通する財政状況の厳しさを踏まえて、今では、昼の時間帯の生番組でも、謝礼はなし、交通費のみ支払う原則が出来上がっています。

番組ごとに決まったパーソナリティが活躍しています。エフエムたいはくのスタッフがパーソナリティと話し合いながら編集作業を担当し、番組に仕上げますが、パーソナリティのなかには、収録から編集まで一切を自分で行う人もいます。自社制作が多い点も含め、コミュニティ放送の特徴である地域密着と市民参加を具体化しつつあるメディア現場といえるでしょう。

コミュニティ放送局を支える資金源としては、年末年始の祝賀広告など、工夫を凝らして取り入れている企業とのタイアップによる広告収入が全体の7割程度を占めていますが、パーソナリティの中には、さまざまな形で一定額を自分で負担し、コミュニティ放送の財政を支えるケースもあります。欧米に伝統的な無償のボランティアの形を一歩進め、新しい形の市民参加を模索しているようにも見えます。

次回に続く)

「市民が主役」を合言葉に/コミュニティ放送局「エフエムたいはく」の場合(中)

【写真】インタビューにこたえるエフエムたいはくの野田紀子代表

エフムたいはくの運営会社、エフエムたいはく株式会社の代表取締役野田紀子さん(70)に話を聞きました。

野田さんは2008年6月に2代目の代表に就任しました。2007年9月の開局から1年も立っていないタイミングでの代表交代でした。以来、まだ十分でなかった資金調達や番組編成など、運営全般に責任を負ってきました。当然のことながら代表としての責任は重いものがあります。

「コミュニティ放送への融資環境がまだ十分でなかったころ、金融機関に融資をすべて断られました。何度も足を運びましたが、金融機関に直接頼んでも難しかったので、コミュニティ放送という事業への信用を関係機関から取り付けるのに必死になりました。4回目ぐらいの訪問で担当者が前向きになってくれたのを感じました」

代表就任と同時に、自ら地域に出掛けて多くの人たちにインタビューし、番組を作ってきた「現場の人」でもあります。

「これまでインタビューした人は千人には届かないけれど数百人にはなるはずです。コミュニティ放送は地域のために存在します。あくまで市民が主役。営利をどこまでも追求する、普通の会社とは異なります」

もともとは夫と二人で長町地区で電気工事業を起業した人。ラジオや放送メディアの分野で特に経験があったわけではありませんが、地域の電気屋として重ねてきた苦労が役に立つかもしれないと考えたそうです。

「一番最初にマイクと録音機を持って出かけたのは長町小学校で開かれた夏祭りでした。取材の経験がなかったので、何をどうすればいいか分かりませんでした。最初に言うべき言葉を何度も繰り返しながら夏祭りの会場に向かいました。不思議なもので、思い切ってマイクを向けると、初めは驚いても、次の瞬間にはマイクに向かってしっかり話してくれます。その立場になれば人は変われる。地域の人々が主役になるというのはこのことだと感じました」

コミュニティ放送特有の問題や課題と向き合いながら、地域との人的なネットワークをほとんど唯一の武器に一つ一つ問題を解決してきました。

「何事も時間が必要です。一気にうまくいくことはありません。でも、大きな放送局では、住民の誰かが自分の番組を持ちたいと思っても、そう簡単にはいきませんよね。コミュニティ放送の場合、多くの人たちにいろいろな番組を持ってもらえます」

エフエムたいはくが自主制作をここまで進めることができたのは、パーソナリティとして参加する「主役」たちの事情や気持ちを最大限にくんできたためでしょう。

「自分の会社が自分の番組のスポンサーになる形をとっている人もいます。一方で、個人の資格で番組を提供しているケースもあります。今、パーソナリティを努めている人たちの事情や経緯は一人ひとり異なります。さまざまに工夫し続けてくれているパーソナリティの交流会をことし初めて実施します」

次回に続く

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「誰かのために何かをする人」をゲストに/コミュニティ放送局「エフエムたいはく」の場合(下)

【写真】ゲストを招いての収録に臨む鈴木はるみさん。この日は世界進出を目指して京都府から宮城県丸森町に移住し、オリジナルの赤いパンツを製作販売している20代の起業家がゲストでした。

鈴木はるみさん(56)がパーソナリティをつとめる番組は「鈴木はるみのソーシャルで行こう!」です。毎週火曜の午後8時から放送されます。誘われてパーソナリティになって以来、今年で9年目に入りました。毎回、ゲストを招いてそのときどきの話題に切り込みます。毎週休まずに番組を提供し、8年間に招いたゲストはのべ400人を超えます。

「『ソーシャル』という名称は、当時、ビジネスで社会課題を解決する『ソーシャルビジネス』が脚光を浴び、一方でSNS『ソーシャルネットワーク』が社会に急速に広がり始めた、という2つの事象が同時に起こった時期だったことから、『ソーシャル』というキーワードに強く惹かれて番組名に取り入れました」

鈴木さんがパーソナリティとして取り上げる社会問題は実に多彩です。「普段は、企業経営者、NPO代表、学校の先生、映画監督、スポーツ選手、アーティスト、警察、消防、学生などなど、ジャンルを問わず様々な方をゲストに招いています。職種は様々ですが、共通するポイントは、『ソーシャルな活動をする人』=『社会で、誰かのために、という思いで何かをする人』ということです」

「オリジナルの特集企画もあります。例えば、マスメデイアに登場することの少ない地方議員にスポットをあてた市議会議員特集。それをきっかけに市議会の傍聴も始めるなど、ラジオを通した出会いによって、自分の世界が広がることも感じています。今後は、町の活性化に取り組む商店会の特集を企画中です」

鈴木さんは、自分の番組を毎週1回、収録・編集、放送するだけでなく、インターネット、特にフェイスブックなどのソーシャルメディアを活用して発信しています。「アナウンサーでもラジオ局の社員でもない、アマチュアのパーソナリティーが自分の感性で自主制作しています」というのがネット上の自己紹介です。

コミュニティ放送は「コミュニティ」の名称が示すように受信可能な範囲が限られていますが、インターネットを組み合わせることで、影響範囲が飛躍的に変わる可能性があります。

鈴木さんのフェイスブックもコミュニティ放送の可能性を模索する意味合いが大きいといえます。「ラジオは放送が終われば消えてしまいます。コミュニティ放送の場合、大手のラジオ放送に比べて可聴範囲が狭いので、自分の番組を誰が聴いてくれているんだろう。どれぐらいの人に放送が届いているんだろうと思うことがときどきあります。ネットをうまく使って、一人でも多くの人たちに自分が企画・演出した番組の情報が届けばうれしい」

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可能性は自らの中に/ネットでは「主読紙」を探せない

新聞の世界では「主読紙」「併読紙」という言い方があります。全国紙と地方紙の複数を複数購読する場合も、どれを「主読」と言うかは別にして、確かにありました。(今でもあるでしょう)

ここ数年、新聞各社はネットで自由に読んでもらう記事を絞り込む傾向にあります。新聞購読とのセット料金を設定するなど、売り上げに結びつく有料読者を囲い込もうとしています。世界的な傾向でもあるし、迷いながらも新しい道を模索する努力を単純に否定するつもりはないのですが、その結果、たとえばネット検索で上位にくるのは無料でニュースコンテンツを公開している新聞社の記事になっていることに気付いていますか?

ネット検索の結果、コンテンツがどんな順番に表示されるかについては、専門的で複雑な事情があるので触れませんが、大まかに言って、アクセスが多ければ多いほど上位に表示されるようです。

ネット利用者が受けている最大の恩恵は「多様性」です。新聞社が自分の利益を最優先に考え、利用者の囲い込みに走った結果、新聞社系のコンテンツが利用しにくくなり、利用者の期待値もどんどん下がるとしたら残念なことです。ネット利用者がネットの現状について何を感じ、どう行動しているのか。その中で自社のコンテンツがどう利用されようとしているのか、にもっと関心を持った方がいいです。

新聞社のニュースをネットで読もうとしても、途中で有料サービスに誘導されるので、最近では見出しをサッとながめるだけになってしまいました。新聞社が提供してくれるニュースコンテンツへの期待がどんどん下がっているのを実感します。

ネットで「主読」を決められるのなら、有料契約することにやぶさかではありません。しかし、そのためには新聞購読とはまったく異なる体験を提供してくれることが最低条件です。一部に例があるように、新聞購読者に限っておまけとしてネットコンテンツをサービスするレベルでは話になりません。

今なお新聞に親しんでくれている人が、ネット商品をどの程度希望しているのでしょうか。そのあたりのリサーチがいい加減だったり、スマホ全盛の世の中にあって、新聞全紙大の画像を価値あるものと勘違いしたりしてはいないでしょうか。新聞購読者、ネット利用者双方のニーズをもう一度洗い直した方がいいでしょう。

いわゆる全国紙の場合、地理的にみると、新聞とネットのマーケットがほぼ同じなので、ネット環境に合わせた新サービスを開発するには苦労が多いはずです。今の時点で有効なのはネットコミュニティを面白くかつ多彩に演出するサービスぐらいです。それも、全国展開のメディアにありがちな、テーマに依存するタイプのコミュニティでは駄目でしょう。地理的環境を本格的に踏まえたコミュニティビジネスを幾つも開発するぐらいの思い切りが必要です。

地域に由来する新聞社なら地域限定の新聞と、その気になれば地球規模で広がるネットのマーケットが重なることはありません。最も得意とする地理的要素をしっかり踏まえたネットビジネスを開発できない方がおかしい。条件の違う全国紙の動向を気にしたり、とりあえず目につく先行事例を真似たりするだけではどうしようもありません。成功への可能性は自らの中にある、と考えた方がよさそうです。

*写真は本文とは関係ありません。

「これからのローカルメディア」(NHK仙台放送局 『ゴジだっちゃ!』のために用意したメモ)

「これからのローカルメディア」(NHK仙台放送局『ゴジだっちゃ!』2018年10月25日のための準備したメモ)

  • ローカルに限った話ではない。この20年の間、インターネットやデジタル技術が社会の隅々まで浸透した。今後も、人工知能、ロボットなどの技術に注目が集まり、メディアの世界も変化を重要な余儀なくされる。
  • 全国的に事業展開している新聞社やテレビ局などについては誰もが取り上げるが、各地で独自に活動してきた数多くの地方新聞社や地域を基盤とするさまざまなコミュニティ放送等はほとんど取り上げられない。
  • しかし、現実にはさまざまな新聞が存在するし、放送にも多様なスタイルが存在する。いわゆるジャーナリズムや報道の意義や価値をめぐる議論も、本来なら双方のタイプのメディアが存在することを前提に行われなければならないのに、なぜか世の中に流通するのは全国的な新聞や放送にまつわるお話ばかりだ。地域に由来する地域メディアの当事者たち自身が、ややもすると自らが担ってきた役割や責任を自ら矮小化し、全国的に展開するするメディアと地域メディアとは異なるものだと言わんばかりの勘違いな発言にも少なからず出合ってきた。あえて「地域メディアにジャーナリズムは不要だ」と言い切ることで、自らのメディアとしての意義をデザインしたつもりなのだろうが、それは重大な勘違いにすぎない。規模の大小やスタイルの違いはあっても、複雑な社会課題や地域課題に向き合うための基本的な原則に違いはない。地域メディアには地域メディアなりの、逃れられない報道原則が存在する。加えて誤報は出さない。人権は尊重するなど、実務上、守らなければならないポイントも多い。
  • インターネットの爆発的な普及に伴い、メディアの世界にも厳しい変革の時期が到来してほぼ20年が過ぎた。ややもすると無視されがちなローカルメディアにまず重点を置きながら、「これからのメディア環境」全般について、多くのみなさんとともに考えたい。新しい時代を支えるにふさわしい、ユニークで楽しげなメディア事例が全国各地に生まれ、それらがネットワークを組んで進むようなメディア環境を妄想している。
  • いわゆるマスメディアに属する地方新聞社を卒業後、この5年ほどは既存のメディアの領域については傍観するだけだった。かつて一緒に仕事をした同僚や業界有志たちのなかには新聞とデジタル&ネットを組み合わせるべく悪戦苦闘しているケースもあるが、地域に立脚するメディアのほとんどがネット時代に対応しきれず、苦戦している。
  • もちろん質問されれば全力をあげて答えたいとは思うが、まず当事者自身がその気にならなければ、問題解決のスタート台にも立てない。
  • 言うまでもなく「これからのローカルメディア」は可能性に満ちている。全国的に展開する新聞やテレビと違って、ローカルメディアの開発・運営を目指す場合、地域それぞれに独自の歴史的背景や文化を備えている。その点をしっかり意識し、自分の立ち位置を生かしたアイデアを幾つもひねり出し、試し、大多数は失敗に終わるー。そんなプロセスを覚悟する中からしか光明は見えてこない。挑戦する価値は大いにある。
  • 地域メディアの現場における実際の取り組みは、同じ業界の先行他社の事例を、何とか自社に応用しようとする、横並びの思考回路から抜け切れていない可能性がある。しかし、今後、百年を支えるストーリーが同じ業界のどこかに、適用可能な形で存在していると思ったら大間違いだ。
  • ネット技術やデジタル技術は、何か特定の業種を狙い撃ちしているわけではない。社会全体に強烈な見直しと創造を求めている。誰にも止められないし、逃れることもできない。
  • 地域に立脚するメディアが目指すべきプロセスの第一歩として、自分がよって立つ社会の変化にまず焦点を合わせよう、そこから見えてくる新しい技術と社会の関係について十分理解しながら、自らの事業を位置づけるステップを工夫しよう。
  • そんな思いで、あらためて自分の足元を見渡したところ「これからのローカルメディア」のありようについて、必要な前提を初めから押さえ、実際の活動に着手しようとしている若い世代が複数存在した。ほぼ3年を費やしてまとめたのが拙著「仙台発ローカルメディア最前線 元地方紙記者が伝えるインターネットの未来」(デジカル、2017年5月)だ。アマゾンで紙・デジタルどちらも入手可能。
  • 「仙台発ローカルメディア最前線」で紹介した3つの事例には、既存メディアの現場で苦労している少数の人たちにとっても参考になるヒントが多数ひそんでいる。「これからのローカルメディア」のありようを一つの文脈で提示することはもちろんできない。全国各地の地域事情を、デジタル&ネット、さらには人工知能やロボット技術と掛け算して初めて視界が開けるはずだからだ。たかだかこんな単純なことでも、「これからのローカルメディア」の担い手としての自覚がない人たちは残念ながら分からない。
  • 「これからのローカルメディア」は強力な地域性を最大の武器にグローバルに展開するものになることだけは間違いがない。ローカルメディアにとってジャーナリズムは邪魔だとか、全国展開するメディアと草の根のメディアは異なる-といった勘違いとは対極に広がる空間になるはずだ。
  • 地域の人々を巻き込む意義を考えたい。「ゴジだっちゃ!」の杉尾さんはじめ、スタッフのみなさんはとっくに気付いていると思うが、実際はとても難しい。地域の人々を報道の世界に巻き込もうとすると、必ず出くわすのが「報道の仕事はプロフェッショナルが責任を持って担う必要がある」といった人々だ。報道に使命を果たすために肩に力が入った人ほどそうした傾向が強い。そんなものは当然の前提にすぎない。この20年から30年の間、社会がたどってきた複雑系の世界では、価値観が多様化し、伝統的な手法では社会問題の存在さえキャッチできなくなってしまっている。
  • つまり、社会問題が存在することと、その解決のための手法やプロセスを提案することはジャーナリズム、報道、ニュースのプロたちの仕事のはずだが、実際はインターネットひとつとっても「内向きプロたち」の手には余る。組織の都合や生産(プロダクツ)する立場の論理を優先的に振りかざしがちな人には、問題のありかを言い当てることができない。在野の人々の知識や経験が内向きのプロをしのぐことは珍しくないことにさえ気づかない。ソーシャルメディアによる開放系の情報経路の発達がごく普通の時代になっても、古い常識にとらわれ続ける人たちには、拙著「仙台発ローカルメディア最前線」で取り上げている「未来ビジョン」の受講をおすすめする。
  • インターネット登場以来の刺激的で、自らの立ち位置を揺さぶられるような日々を通じて、メディアと市民との連携・協業の重要性にやっと気づいた。ローカルメディアだからこそ可能なシナリオを考えたい。拙著の第1部に記した「TOHOKU360の挑戦」「ウルッシーの八面六臂」「地域アーカイブの地平」をぜひ読んでみてほしい。いずれも「これからのローカルメディア」の典型的な成功事例とはまだいえない。あくまで途中経過、模索の現場だが、そこで彼ら彼女らが向き合っているのは、今後すべてのローカルメディアが乗り越えなければならない壁である。
  • 抱えている問題も、一つひとつにしっかり向き合わないと解けない。普通の人々が参加するメディアといっても、経験はほとんどない。日本でも、市民メディアの議論の中で市民参加のケースがなかったわけではないが、すべて失敗に終わっている。その理由は、ビジネスモデルの新しい形を目指すあまり、メディアとしての手順や実態が粗雑で荒っぽく、ニュースメディアとしての価値を有するかどうかの検証も不十分だった。
  • 前職中からNHKの放送局の方と何度も話す機会があった。テーマはいずれも同じ「地域との連携」「視聴者との交流」を進めるうえでネットをどう使えばいいか、だった。NHK仙台放送局の「ゴジだっちゃ!」は、2011年3月11日の東日本大震災の経験を踏まえながら地域と連携するシーンをいくつも作りつつあるように見える。それはとりもなおさす、仙台という百万都市における「これからのローカルメディア」づくりの一例だ。
  • 既存メディアの中にいる後輩たちも、こうしたことはとっくに気付いていて真剣に取り組んでいると思いたい。既に「市民記者」的なアプローチを採用している事例も結構あるはずだ。
  • しかしながら、既存のメディアの現場では、市民記者は本職の記者の仕事の空白や余白を埋めるためだけに利用されがちだ。素人の文章は手がかかる、危ないと本音では思いながら上から目線でのぞむことがないわけでもないだろう。市民との関係を自分本位で組み立てようとしても無理。市民は、新聞社の経営を助ける合理化ツールではない。人件費を節約するためだけに市民記者を使うような発想は市民に対して失礼というものだ。
  • 私自身も何度も経験したが「文章教室」を新聞記者に頼むケースがよくある。新聞記者は文章のプロ、という思い込みが世間的には存在する。しかし、新聞記者は新聞業界が長い時間をかけて作り上げてきた新聞独自のルールの世界で文章を書くのは得意だが、日本語の魅力や可能性を柔軟に取り入れる意味では、必ずしもたけているわけではない。ごく普通の暮らしの中で物事をとらえる人たちの感性や文章表現の幅の広さを、新聞社で働いているというだけで自動的に上回れるものでもない。
  • TOHOKU360編集現場をのぞいてほしい。取材し、編集・発信するニュースの現場にはさまざまな役割がある。市民参加のメディアは、その役割を明確にし、多くの人たちが担えるような環境を備える。その姿はまるで「ニュースコミュニティ」のようだ。
  • ニュースを編集する過程の最終関門として、ニュースの内容に責任を持つ、誤報は出さないという二つの要請を確実にするために、校閲などの編集上の工夫が必須になる。TOHOKU360の場合、ニュースを取材し執筆する「通信員」(=ライター)一人ひとりの個性や感性を最大限重視する。他のメディアと不毛な競争をするために「通信員」の個性をそぐこともしない。編集責任者と「通信員」の間でキャッチボールが何度も繰り返されて初めてニュースとして公開される。実際にやってみるとすぐに分かるが、「通信員」の個性を尊重しながら公開可能な記事に仕上げる作業は、簡単ではない。
  • 既存の新聞社にも、いわゆるデスク、キャップと呼ばれる立場がある。その場合も経験と失敗、失敗してもまた立ち上がる能力が必要だが、新聞独自の編集ルールがある分だけTOHOKU360よりは容易な側面がある。新聞の世界でデスク、キャップと呼ばれ、他の記者が書いた記事を公開可能な形に仕上げる役割を長いこと経験した立場からしても、TOHOKU360のデスクワークには忍耐力と柔軟な感覚、筆者とのコミュニケーション能力が求められる。
    (終)