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新聞のこと、そして「地域」と「ネット」の掛け算/自分で解題「仙台発ローカルメディア最前線(2)」

電子書籍とPOD出版の提案を受けた際、テーマを「地域メディア」にすることはすぐに決まりました。河北新報社という地方新聞社で40年も過ごした経験を土台に、地域メディアが目指すべき方向について、少しは有効な指摘や提案ができればいいと考えました。ただし、幾つかの注意すべき点がありました。

最も重要なのは、地方新聞社に関する限り、新聞社が置かれている状況はすべて異なるため、すべての新聞社に共通する回答や打開策はまずありえない点でした。

地方新聞社はそれぞれの地元では一国一城の主です。地方新聞社同士は競争関係にないので、たとえば九州の新聞社の取り組みを東北でほとんどそのまま使い回すやり方でも、ある程度の成果を導き出すことは可能でした。振り返って見れば、それは新聞ならではの夢のような話でした。

一方、ネットやデジタル環境は社会全体の変容を迫っています。縄張りにも似た地理的な境界線を設定し、自社の利益を守る発想自体、通用しません。新聞時代のように、いずれかの新聞社が開発した手法を参考にしようとしても、二番手は二番手、フォロワーはフォロワーです。先行者利益をがっぽりとられた後の残りかすを求めることになりかねません。

地方新聞社のネット&デジタル戦略のかぎは、地方新聞社固有の地域的な特色とインターネットがもたらすさまざまな変数との掛け算にあるというのが拙著の立場です。地方新聞社がよって立つ、固有の地域社会とともに自ら変わることを恐れず、さまざまなプレイヤーとの連携を大胆かつ多様に進めなければなりません。

繰り返しになりますが、すべての地方新聞社に通用するお仕着せや幕の内弁当のような手軽な解決策はありません。だからこそ、よって立つ地域との連携やインターネット&デジタルの特性を生かすための人材や技術の蓄積が求められます。

その意味で友人の一人が拙著について「生煮えだ」「85点だ」と言ってくれたのは、非常に正確な受け止め方でした。もちろん、「生煮え」状態を少しはましな提案に育てるべく今もあれこれ取材し、多くのプレイヤーたちと議論しています。そのステップは一般論ではなく、新聞社ごとに設定されなければお話になりません。地域に立脚するメディアのありようをインターネットやデジタルに重ねて考えるときの、面白くて苦労しがいもあるポイントです。

もう一つの観点があります。あいにくなことに、地方新聞社の多くは外部の指摘や評価に耳を傾け、自ら変わる準備がまだできていないように見えます。だから、外部の人間が何を言っても「中の人」には届かない。つまりは、あと15点を追加する資格があるのは、それぞれの新聞社の「中の人たち」なのです。

特にネット&デジタルへの対応をひたすら避けてきた編集部門が依然として「新聞」に逃げ込もうとする限り、これからの時代に対応するのは不可能です。拙著でも、長い間お世話になってきた研究者や企業家の力を借りながら「中の人」に気付いてもらうためのメッセージを送り続けています。少しでも関心のある方はお目通しください。

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