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デジタルならではの自由/ハワイのデジタルメディア(8・完)

diane01ハワイのデジタルメディアの特徴は、何と言っても、ローカル価値を再構築するかのような勢いを感じる点です。特に最大のコンテンツである観光を軸に、さまざまな背景を持つメディアが競い合う様子は非常に興味深いものがありました。最後に、デジタル専門の取り組み事例「フローリック・ハワイ(Frolic Hawaii)」を紹介します。

「フローリック・ハワイ」を日本語にすると「陽気なハワイ」といった意味でしょうか。「楽しい」「にぎやか」「ハイテンション」-そんなイメージです。既に紹介した「ホノルル・スター・アドバタイザー」の娯楽系ポータルサイト「ホノルル・パルス」と似たコンセプトを持っています。「グルメ(EATING)」「カレンダー(CALLENDAR)」「ナイトライフ(NIGHTLIFE)」「ファッション(STYLE)」「旅(TRAVEL)」「ブログ(BLOGS)」など8つのジャンルでサービスしています。

編集者のダイアン・セオさんにインタビューしました。「ハワイのイベントの予定を一覧できるカレンダーを見てください。スター・アドバタイザーの『パルス』には真似できないような充実したサービスを目指しています。「パルス」との大きな違いは『インツウ情報』に力を入れている点です。普通の情報ではなく、内部事情に入り込んでキャッチした新しい情報を提供します。レストランの新装開店もどこよりも速く出すのが『フローリック・ハワイ』の得意とするところです」

セオさんはロサンゼルスタイムズでも働いた経験があります。デジタルマガジン「サマーサロン・ドットコム」を担当しました。男子テニスの団体のデジタルメディアにかかわるなどした後、「ホノルル・スター・アドバタイザー」の「ホノルル・パルス」で週末情報(TGIF)や「メトロミックス」というエンタテイメントコーナーを担当しました。2010年に「フローリックハワイ」の前身である「ホノルル・ノンストップ」を個人的におこしました。複数のデジタルマガジンを発行している地元企業「aio」に買収されて現在に至っています。

新聞社系のデジタルメディアから独立系のデジタル専門メディアまで幅広い経験を生かし、デジタルの特性を生かしたコンテンツの開発を目指しています。ホノルルのブロガーの参加も自ら呼び掛け、そのリポートにも編集者として注文をつけるそうです。

「2008年にスター・アドバタイザーで『メトロミックス』を始めたときに読者から言われた言葉があります。来週何が起きるかを早めに知りたい。おすすめイベントを選んで、どんどん紹介してほしい、というものでした。スター・アドバタイザーの『ホノルル・パルス』のイベント情報は、毎週金曜日に発行される新聞に合わせて更新されるのでどうしても物足りないのです。デジタルメディアならいつでも情報が出せます。そのデジタルメディアの良さをサービスとして具体化しなければなりません」

「何と言ってもチームの力が重要です。『フローリック・ハワイ』には、ソーシャルメディアを使いこなすプロフェッショナルなスタッフが集まっています。彼ら、彼女たちの力でかなりの情報が集まります」

新聞社系のデジタルメディアとの違いについても語ってくれました。

「新聞社でデジタルメディアを始めると、確かに情報の元になる資源は多いように見えます。担当する人も多いし、資金もある。けれども、デジタルメディアをうまくやっていくには、新聞社の古い体質がどうしても足を引っ張ります。なかなかうまく行きません。新聞社には、デジタルメディアに欠かせない自由がないので、制約ばかり目立ってしまいます。『フローリック・ハワイ』の前身である『ホノルル・ノンストップ』を始めたときはたった一人でした。資金も4千ドルしかありませんでした。収入も少なかったけれど、その分、かけるお金も少なくて済んだし、何よりも自由がありました」

「フローリック・ハワイ」には著名なブロガー10人が記事を書いています。ブロガーに支払うお金は、どれだけの記事を書くかによりますが、一人あたり、月に200ドルから800ドルくらいだそうです。

「他のメディアとの競争の面から言うと、ホノルル・スター・アドバタイザーの『ホノルル・パルス』には新聞からサイトに入ってくるオーディエンスがいます。そうしたバックもなく、個人で始めた『フローリック・ハワイ』はどうするかと言えば、メディアとしての自由を生かしながら、ソーシャルメディアを使って客を呼びこむしかありません。それが新しいやり方です。他のメディアとの競争は厳しいけれど、新聞社の中で仕事をしていたときには振り向いてもくれなかったような客がついてきます。広告の面でも『フローリック・ハワイ』にはニッチなクライアントがついている。新聞社のときとはまったく違う環境です」

「フローリック・ハワイ」の運営はとてもシンプルです。フルタイムで働いているのはセオさん一人。必要な仕事は外部のフリーランサーに頼みます。

「フリーのみなさんにとってお金はもちろん大切ですが、その仕事を通して自分がどれだけ楽しめるかも重要です。『フローリック・ハワイ』で仕事をすることで、自分自身の評価にもつながるようにしたい。編集者として、もともと彼らのスタイルが好きだったので選びました。とにかく面白いものを書いてくれと言っています。書きたいことの提案があると、判断の基準にするのは、読者が面白いと思うかどうかです」

ソーシャルメディアのうち、フェイスブックの活用を重視しています。「フェイスブックに情報を載せると、大勢のみなさんにシェア、共有されます。その拡散力のおかげで、新たな客を獲得できます。ツイッターのフォロワーは12000人くらいです。フェイスブックよりも数は多く、拡散力も強いんですが、ツイッターの場合、どんどん流れていってしまいます。フェイスブックは、記事を見た人が1500人程度だとしても、面白い記事を書けばシェアも増えるなど、手ごたえが全然違います」

「フローリック・ハワイ」のユニークユーザー数は約3万人。ベージビューは月約60万です。スポンサーと広告によって成り立つ広告モデルです。

写真は「フローリック・ハワイ」の創設者ダイアン・セオさん

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