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アーカイブが街歩きを演出・お茶ナビゲート/「地域」と「メディア」(4)

mr_nakamura02 わたしたちが住む「まち」や「地域」には、さまざまな観点で検索できる情報群(=「地域アーカイブ」)が広がっています。これらの情報群は、ただ存在するだけでは価値を生みませんが、多彩な情報群にしっかり向き合い、利用プログラムを開発し、意識的に検索をかけることで、利用価値は無限に広がります。

NPO法人「連想出版」が「街歩き」を楽しむ人たちのために、都内御茶ノ水で企画・運営している民間スペース「お茶ナビゲート」も、地域アーカイブが持つ豊かな可能性を示しています。先進的なデジタル技術だけでなく、スペースの運営やコンテンツに人手をあえてかけるアナログな手法・感覚を併せ駆使しながら「街歩きの拠点」づくりに挑んでいます。NPO法人「20世紀アーカイブ仙台」の副理事長、佐藤正実さんを通じて「お茶ナビゲート」の取り組みを知りました。

「お茶ナビゲート」はJR御茶ノ水駅と地下鉄の御茶ノ水駅にほど近い民間ビル「御茶ノ水ソラシティ」の地下1階にあります。ショッピングや食事を楽しめる、にぎやかなエリアの一画にあります。内部の様子が外からでも見えます。非常に開放的な雰囲気です。

「お茶ナビゲート」を利用すると、御茶ノ水界隈の街歩きを楽しむために必要な情報を入手できます。無料で利用できる大型のタッチパネルが2台あります。

touch_panel011台目のタッチパネルでは、自分の好きな散歩コースを設定し、A3版の地図として受け取ることができます。「散歩地図」には、分野ごとに自分で検索した「スポット」を配置することができます。そのときの気分や散歩の目的に合わせて、自分だけの「スポット」を配置できるわけです。自分で選択した「スポット」に加え、「連想検索」という、グーグルとは異なる独自の検索システムが選んだ「おすすめスポット」が追加されます。

2台目のタッチパネルには、御茶ノ水界隈の地図に、時代の異なる古地図を7層に分けて重ねてあります。利用者は簡単な操作で、時代を自在に行き来しながら、時空を超えた街歩きを楽しめます。

単なる街歩きのための情報なら、インターネットで提供されているコンテンツや出版物として既に数多く存在します。「お茶ナビゲート」のシステム開発をとりまとめ、オープン当初から運営にも携わっている中村佳史さんは「それらのサービスと競争するのが目的ではありません。写真や古地図、テキストを利用者の身になってさまざまに組み合わせ、街歩きの起点を提供するのが目的です」と話しています。

「この界隈のスポット297件に関する情報を蓄積しています。ここから半径2キロぐらいの間でしょうか。大きく構えず、街歩きができる範囲をカバーしている点がポイントです。スポットごとに簡単な説明と写真を何点か切り替えて見られるようにしています。老舗のお店だけを選んだり、『明治・大正レトロ』といったテーマで街歩きのスポットを並べたりすることもできます」

ocha_navi「たとえばこのまま秋葉原に出て帰りたい場合、地図上で、御茶ノ水から秋葉原までを指でなぞると、そのコースに沿ったお薦めスポットが自動的に表示される仕組みも用意しています。地図上で立ち寄りたいスポットを探すことも、もちろんできます。自分で設定した『散歩道』をA3版の地図として印刷してお渡しできます」

「お茶ナビゲート」で使用している写真は、一部、飲食店などから広報用の写真を提供してもらったものもありますが、大半は自分たちで足を運んで撮影したものだそうです。インターネットのウェブサイトと連動させて、より多くの人たちに情報として利用してもらうことも技術的には可能ですが、利用者が設定した「散歩道」をスマートフォンには表示せず、A3版の地図として渡すことにこだわっているあたり、インターネットに無数に存在するコミュニティーや情報サービスとは一線を画しているように見えます。

中村さんは「飲食店なら使いやすい専門的なサイトが幾つもあります。いろいろな施設のウェブサイトも最近はよくできていますから、後から作って、それらと競い合う必要はありません。『お茶ナビゲート』の街歩きに関する情報は、わたしたちの独自の編集で提案しています。情報を大量に万遍なく提供しようというような、網羅性を考えているわけでもありません」と話しています。

併せて中村さんは「これからの情報発信には『編集力」がとても大事」と強調しながら、お茶ナビの発信についても「(御茶ノ水界隈を)『編集』した結果として表れることが重要」と強調しています。

地域のアーカイブを活用した「街歩き」の主人公は、流行りのシステムや情報を提供する側ではなく、「お茶ナビゲート」にやって来る人たち一人ひとりだということのようです。特に、地域の「編集力」に注目している点で、「20世紀アーカイブ仙台」の取り組みと通じるように思います。

写真(上)は、古地図を組み込んだタッチパネル。現在と過去の間を行ったり来たりしながら街歩きができる。

写真(中)は、自分だけの「街歩きマップ」を作成できるタッチパネル。

写真(下)は、街歩きの拠点として注目されている「お茶ナビゲート」

(次回に続きます)

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