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1人だけウォッチドッグ/ハワイのデジタルメディア(2)

sub_editor02Civil Beatはハワイ最大のニュースサイトです。「調査報道」「ウォッチドックジャーナリズム」を掲げ、地域コミュニティーの課題の抽出と解決に向けた議論の場の提供を目指しています。世界的なネットオークションサイトeBayの創始者であり、投資家であるピエール・オミダイア氏が2010年に設立しました。

以下、Civil Beatの公式メッセージから引用します。

「Civil Beatはまた、個人による誹謗中傷のない節度あるルールのもと、市民が重要な社会問題に関して議論できる場を提供し、コミュニティーによるディスカッションを活性化していきます。私たちは多種多様な読者や地域の声、公共のイベントを取り上げ、応援します」

Civil Beatの副編集長エリック・ペイプさんに話を聞きました。

「われわれの役割は市民自身が判断するために必要な材料を提供することです。地域のさまざまな課題を浮き彫りにし、それに関心を持つ市民が自分で判断できるようにします。スタート当初はブログポータル的なサイトでしたが、Civil Beatの報道をより多くの人たちに見てもらうため、最近行ったリニューアルでマガジンのようにビジュアルなサイトを目指しました」

よく知られていることですが、米国の報道機関の場合、たとえば大統領選でも特定の候補者への支持を明確にすることが珍しくありません。候補者の政策はもちろん、私的な領域にまで踏み込んで多様な材料を提供したうえで、自らの支持を具体的に明らかにします。民主主義や市民自治の伝統など、米国ならではのプロセスの中にある重要ポイントの一つです。

ペイプさんの話は、そうした米国メディアの空気とは印象が違いました。「ローカルの新聞の場合、たとえば商工会議所のようなところが絡み、戦略的にどちらか一方を支援することを普通にやっています。Civil Beatは絶対にやりません。特定の立場を支援することはありません。記者の数も少ないので、地元のスターアドバタイザー紙に比べれば、取り上げる範囲は狭いかもしれないけれど、バランスを心掛けながら、取材対象やテーマに深く深く入り込むようにします」

Civil Beatの報道活動はローカルに特化しています。調査報道と「ウォッチドッグ」がモットー。しかも、それをデジタルの有料サービスとして展開する点にメディアとしての最大の特色があります。

多様な可能性と利害関係が入り組む地域において、報道活動をスタートさせる際、あらゆる利害関係者との間に「等距離」の理念を置くのは、きわめて自然な話ですが、何事も主張や立場の明瞭さ、市民参加の伝統を重んじる米国社会において、Civil Beatのようなスタンスがどのように受け入れられていくのか。さらに注目する必要がありそうです。

ペイプさんは米国のメディアの一般的な姿とはひと味異なると強調しながら「たった一人でウォッチドッグです」と笑っていました。

地域をベースにする報道にかかわろうとすると、さまざまな立場を踏まえたプレイヤーとの濃密な関係に置かれます。利害をめぐる緊張関係も多様に存在する中で、あえて「中立」を打ち出すスタイルは、伝統的に日本の地方新聞社が得意としてきたところでもあります。その「中立性」に対して時として批判が起きる点も含めて、Civil Beatのデジタルメディアとしてのチャレンジには、何となく親しみを覚えるのでした。

写真はCivil Beatのエリック・ペイプ副編集長

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