Permalink

off

編集長からのメッセージ/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(7完)

「ひばりタイムス」の創設者で編集長の北嶋孝さんからメッセージが届きました。地域報道メディアの運営を通じて得た経験やメディア観はとても参考になります。地域メディアや市民メディアに関心のある人たちにもぜひ読んでもらいたいので、北嶋さんの許可を得て、以下に全面公開します。

◆  ◆  ◆      ◆  ◆  ◆

ご指摘のように、「地域」「地方」「ローカル」と言うときの対象は千差万別です。佐藤さんたちが試みているように「東北」というエリア設定があり、ひばりタイムスのように個別の自治体、行政エリアを指す場合もあります。

暮らしの地域と、行政エリアはピッタリ重なっていません。5年間ひばりタイムスを続けてきた実感です。

地図を見ると、ひばりタイムが主な活動地域にしている西東京市は東京都の最上部、北はずれに位置します。北は埼玉県新座市、東隣は練馬区、南は武蔵野市、西は東久留米市、小平市に隣接している郊外型の住宅地域、いわゆるベッドタウンと言っていいでしょう。西武池袋線と同新宿線が市の東西を横切り、都心の池袋と高田馬場・新宿のターミナルにつながります。

市内にはこの2つの沿線に5つの駅があります。それぞれの駅前にはスーパーや商店が集まり、駅前が人の流れ、賑わいの中心になります。

西東京市は旧保谷市と田無市が2001年に合併して誕生しました。保育園や幼稚園、小中学校の保育・教育ゾーンがいまだ、旧市の区分を残しつつ存在します。これと駅前を中心とした通勤・買い物ゾーンが暮らしを支える生活圏です。これから介護のネットワークをどう重ねていくかが課題になっています。

暮らしのゾーンと行政区分のズレは、別に東京に限らない課題かもしれません。ひばりタイムスのキャッチコピーを「西東京市+近隣、折々日本と世界」とした前半部分は、そんなことを意識して考えました。

ひばりタイムスは西東京市の住民に読んでほしいと思って記事を掲載してきました。
しかし、その区分の差異を摑み損ねているのではないか、読み手に届いていないのではないかと、ひばりタイムスを運営しながら、記事を書きながら、感じてきました。編集長の私のほか、一緒に記事を書く市民ライターの数が限られるという量の問題が大きいことは言うまでもありません。しかし、それだけでもないと、感じているのも確かです。

気になるのは「ニュース」の特性です。
ニュース指標は、新しい、珍しい、社会的な影響度合いなどによって測られます。しかし、こういう使い慣れた指標だけでは、地域生活の実態と合っていません。ズレていると感じます。

例えば地域のお祭やフェスティバルは、毎年ほぼ同じ繰り返しです。関心を寄せる範囲は文字通り地域的、ほぼ狭い地域限定です。1回は取り上げても、2回、3回と続けて書くとなると書き手を変え、視点を変えて取り組むことになります。市内の各地域で繰り返されるこの種のイベントはほかにもたくさんあります。忠実にフォローすると、画面はこういう出来事だらけになりかねません。

これまでの感覚では「ニュースになる」のは限られた出来事でした。しかし暮らしのリズムがほぼ似たことの繰り返しなら、小さく見える地域の催しも別の意味を持ってこないでしょうか。

子どもたちが担ぐ神輿の行列や掛け声を、家の前で待っている方々がいます。毎年続いていることが、日常の折り目節目になっているのです。いわゆるジャーナリズムで当たり前にしていたニュース感覚は残念ながら、こういう平場の繰り返し、年ごとの暮らしのリズムをうまく掴めていません。反復は「ニュース」に馴染みにくいのです。せいぜい「あれから×年」「××周年」などの区切りで辛うじて引っかけていたのではないでしょうか。

対象にしっかり触れ掴まえて書く方法がまだ未熟、と感じます。手を変え品を変えてトライしていますが、手応えはイマイチですね。もっとも、ニュースが暮らしのすべてを覆わなければならないとの考え方自体が傲慢かもしれませんね。

佐藤さんの原稿を読みながら、こんなことをあらためて考えました。
言葉を換えると、読み手をもっとリアルに想像し、伝える手法を磨く必要にあらためて興味が湧いてきました。読者、つまり住民の多重的な意識、重層的な関心については、選挙の投票率である程度推測がつくかもしれないとの仮説を立てました。国政、都政、市政の3段階ですね。おそらく、私たちの暮らしの成り立ち、構造に見合った意識だと感じています。

記事の手法については文体を含め、まだまだみなさんの経験を聞かなければなりません。試行錯誤が必要です。これからもご意見、ご批判を待っています。

5年続けてもなお、先の見えない状態が続きます。つくづく大変なことを始めたと思い始めました。始めるときは、各地の報道サイトとネットワークを組めるかもしれないと思っていました。しかし探してみると、そう簡単ではありませんでした。それと思えるサイト運営者の何人かと会いました。しかし事実上休止状態だったり、まちの風景紹介が主だったりしました。残念ながら、報道に軸足を置く実践ケースに、近隣では出会えませんでした。

「求む、地域報道サイト」。記者OBの「地域デビュー」を切に願っています。各地で、それぞれ個性のある報道サイトが始まるといいですね。

前回に戻る

初回に戻る

Comments are closed.