Permalink

off

メディアOBがメディアを立ち上げるとき/西東京市の地域報道メディア「ひばりタイムス」(2)

共同通信のOBでもある北嶋孝さんのお話をうかがいながら真っ先に思いついたのが「メディアOBが自分でメディアを起こす時」というコピーでした。でも、「ひばりタイムス」の紹介ですべてを語るにはあまりにテーマが大きすぎるような気がしました。

ほとんど20年ぶりに再会できた北嶋さんに過剰な負担を強いてもいけないので、最初はごく普通の事例紹介にするつもりでしたが、実際に1回目のブログを書き、お知らせ用に運営しているフェイスブックページで周知してみると、特にメディアOBのみなさんの関心が高いことが分かりました。そこで、少し軌道修正して、メディアOBがメディアを立ち上げる際に参考になりそうなポイントに絞り込んで取り上げることにしました。

「ひばりタイムス」を立ち上げるにあたって北嶋さんは、ほぼ5年分の運営費を蓄えることから始めています。「記事を書いてくれた人には1本あたり1000円を支払います。自分では何も受け取りません」

必要なサイト運営費については、あえてお聞きしませんでしたが、報道サイトを立ち上げるにはシステムの開発やデザイン費がかかります。これはお金のかけようです。「ひばりタイムス」の場合、もともと技術に強い北嶋さんがシステム開発を自分でやったそうです。サーバーのレンタル費もサービスによってさまざま。一般的な大手サービスでも年間5000円程度からあります。

「頑張っているね、とよく言われますが、そんなに力を入れているつもりもありません。できる範囲でできる限り長く続けられれば」

「ひばりタイムス」がメーンの取材地域としている西東京市とその隣接地域は、他の大手メディアの支局等がありません。米国ではインターネットメディアの発達に伴い、資金面で苦戦した既存の新聞社が取材エリアを縮小しました。その結果、「報道の空白」が生じ、汚職などの不祥事や犯罪を監視する力が弱まったと言われたものです。

「ひばりタイムス」を立ち上げたのも「報道の空白」を意識した結果かどうか水を向けると、北嶋さんは「従来のメディアの在り方をそのまま延長すると確かに『報道の空白』というくくり方になります。でも、西東京の場合、たとえば、地方の自治体の日常の仕事、議会の在り方について、どのメディアが報道してきたかというと、どこも報道してきませんでした」と指摘します。

西東京にとって「報道の空白」現象は最近始まったことではないということなんでしょう。「従来からずっとそうでした。なぜかというと、ニュース価値が低いからです。まれにしか、ニュースにできることがないからです。おそらく、日常的にウォッチしても、他の地域の人たちや、今、ここに住んでいる人たちが『面白い』『大切だ』と思えるニュースが本当に少ないのは確かです」

「ひばりタイムス」の日々の活動は、従来から「報道の空白」だった地域に、あえて報道メディアを立て、地域メディアとしての実験を続けているようなものかもしれません。何事も手探り状態の中で北嶋さんは「(従来)マスコミが培ってきたニュースの価値観やセンスで測ると、かなりズレる部分、足りない面が出てくる」のではないかと考えています。

「ニュースへのアクセスでみると、記事の性格によって極端に差が出ます。全市的に影響のある記事よりも、限られた地域イベントの記事にアクセスが多くなります。顔見知りの世界、フェイスブック的なつながりの集団により関心が高いのではないでしょうか。ただし、ひばりタイムスに、その種の記事は多くありません。そこまで地域に食い込んではいないのです。これまでの記事作法ではカバー仕切れないと感じています」

地元密着型のメディアを立ち上げ、運営してきた北嶋さんの言葉は、型にはまったものではなく、インタビューする側に、絶えず考えることを強いるものでした。「ひばりタイムス」の創設者であり編集長である北嶋さんは、今でも、市議会の本会議だけではなく、重要な委員会審議等にも出向くそうです。毎日、どんな風景を見て、何を考えているのでしょうか。

(次回に続く)

(前回に戻る)

Comments are closed.