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地方新聞社の可能性は自らを開く過程にあり/武蔵大学松本恭幸ゼミのみなさんからの質問(9)-(11)

【質問(9)】地方紙が地域メディアとしての役割を今以上に有効にするために考えられる課題、そしてこれからの展望を教えてください。

【答え】地方紙が今後、どうすべきかについて答えの半分は既に出ていますが、その答えを有効な形で組み合わせるには、地方紙がよって立つ地域の特性、人々の表情、文化や歴史、産業・経済、政治も含めて、より具体的に参照する必要があります。同じ「地方紙」「地方新聞社」と言っても、すべて事情は異なります。1社1社について具体的にひざ詰めで論じる中から方向性が見えるはずです。

地方新聞社にかかわる人たちの中で、自分たちに固有の環境について意識しない人はいないと思いますが、インターネットが登場して以来、外国の事例や、いわゆる全国紙など先進的といわれる事例を追いかけようとする傾向があまりにも強すぎました。新しい技術や価値観が支配的になっているとはいえ、変わらなければならないのは地方新聞社そのものです。自らを取り巻く環境も含めた全体がそのまま大きなチャンスになることにまず気付く必要があります。

先進事例を常に気にし、追いかけるだけの態度からは、他社との条件の違いをネガティブにとらえる空気しか生まれません。その結果、泣き言を言ったり、あきらめてしまったりの悪循環に陥り、せっかく与えられている地域との関係性や、そこで暮らす人々とのコラボレーションの機会をみすみす失ってしまいがちです。

【質問(10)】地方紙がこれまでに築いてきた功績であったり、その地域に住む住民にどのような影響を与えてきたか。それが、インターネットを活用してくることによってどんな良い状況を生み、どんなリスクを生むことになるのかを伺わせてください。

【答え】現状の地方紙の最大の問題は、長い時間をかけて培ってきた「功績」や「影響」を紙(新聞)の世界に閉じ込めようとしている点です。なぜ、インターネットの活用というシナリオ、テーブルに、それらを乗せようとしないのか。

この場合、たとえば新聞記事と同じものをネットに再掲したり横流ししたりすることを意味しているわけではありません。ネットにはネットの、デジタルにはデジタルの流儀があるので、新聞がそのままで「大したものだ」「価値がある」と自画自賛的に考え、ネットの流儀を軽視するとしたら完全な間違いです。そんな態度では、その程度でもビジネスのネタにしたいネット企業に安価に買いたたかれるだけです。

さらに深刻で重要なのは、新聞社のコンテンツを求める消費者の好みやシチュエーションが常に変わることに気付いていない点です。「ネットは儲からない」と勘違いをして、デジタル戦線を縮小しにかかっているような新聞界のリーダーの責任が大きいのはこの点にあります。

ささやかながら貴重なネット経験・デジタル経験を積み上げ、消費者のニーズにこたえるだけの能力をもった社員がこの10年の努力で少しは育ったはずなのに、貴重な芽吹きを残らず切り取ってしまうような暴挙が見られるのは極めて残念です。今の地方紙にネット社会の消費者のニーズについて考慮し、ハンドリングできる人材がどれだけ育っているかを、もっと気にした方がいいでしょう。

【質問(11)】地方紙がまずやるべきメディア環境の整備やデジタル化は、どの分野で導入されるべきかを伺わせてください。例えば、それは地域紙の過去の記事をアーカイブして、データ化し、誰でも閲覧可能な体制を作るべきなのかといったように、過去の記事などをうまく活用していく方法、または、現在起きていることをインターネットに記事投稿をする分野で先に導入をしていくべきなのか。そこの部分の考えをお聞きしたいです。

【答え】この質問は、新聞社でも、比較的まじめにものを考えている人からよく聞かれます。しかし、この点でも、地方新聞社を取り巻く環境や経営の意識、社員の力量、地域社会におけるメディアとしての振る舞い方などを総合して考えなければなりません。

新聞社の事情によって採用すべき手法はいくらでもありますが、何度も申し上げている通り、世界観がどのようなものなのか、何を目標にしたいと思っているのかによって、道は異なります。

フリーになってからの取材に基づいて一般論として言えば、地方新聞社の可能性は、自らを社会に向かって開いていく過程で見えてくるはずです。その過程で見えてくるビジョンを支える「武器」は予想以上に多いし、非常に楽しみな世界でもあるはずです。

まず、消費者(インターネットユーザー)が何を望んでいるかを、真摯にとらえることから試行錯誤を始めるべきでしょう。この10年の間、新聞界が陥ってきた製造者の都合を優先する論理を、依然として振り回すようではどうしようもありません。

それと重要なことは、新聞購読者が減少する傾向にあって、新聞を将来的にどうしたいのかについてはっきりしたデザインと目標がなければなりません。部数だけでなく、購読者に届ける形も含めて想像力を働かせるべきです。「購読者」とは別に存在する「読者」をどうとらえるかも重要です。

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