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ネット対応、編集が本気にならない限り無理/武蔵大学松本恭幸ゼミのみなさんからの質問(6)-(8)

(2017年10月25日、都内東京ガーデンテラス紀尾井町「LODGE」で開かれたトークイベント「地方紙から考えるこれからの地域メディアと地域社会」の際、企画した武蔵大学社会学部メディア社会学科・松本ゼミの学生さんから出された質問に対する回答です。地方新聞の未来を正面から考えようとする学生たちの表情がまぶしいひとときでした)

【質問(6)】様々な地域メディアが今まで生まれてきたと思うのですが、その事例について伺わせてください。(ご自身が関わったものであったり、関わっていなくても面白い事や参考になったと思う事例などを教えて下さい。

【答え】(略)

【質問(7)】地域新聞社及び全国の新聞社がインターネットを導入することを受け入れなかった背景にはどういったことがあるのか伺わせてください。

【答え】もちろん、ごく例外的には戦略的な判断を経てデジタル化に向かっているケースもあります。しかしながら、特に地域に由来する新聞社群の中で、今もなおデジタル化を「受け入れ」られないでいる事例が存在するとしたら、それはもう看過できることではないように思います。ネット社会、デジタル社会が到来するのが分かっていて、そのことへの対応を怠ってきたとしたら、取材を得意とする新聞社にはあるまじき行為です。

新聞社がネットを受け入れられない理由はさまざまですが、経営トップの判断のレベルで言えば「ネットは儲からない」と判断したことが大きな理由のようです。

でも、新聞という、たった一つの商品しか持たずに百年以上も仕事をしてきた企業体がネットを簡単にビジネスにできると考える方が間違いです。新聞も新聞社も大きな意味のデジタル社会で生き残る必要があるとの時代観というか、大局観があれば、10年、20年、30年の長期的な目標を設定し、そのときどきのリソースを組み合わせながら取り組んだはずです。取材を得意とする新聞人のはずなのに、そのような意味での大局観がないままに、自分の任期さえ無難に過ぎれば御の字と考えるとしたら、やはり無責任としかいいようがありません。

特に重要なのは編集部門の「食わず嫌い」です。百年以上の実績を持つ新聞というパッケージを愛するあまり、インターネットは新聞を駄目にするという、根拠のない考えに支配されてしまいました。

今ごろ繰り返すのもこっけいですが、ネットは新聞を駆逐するのではなく、ネット環境が新しい価値、新しい環境、新しいライフスタイルを提供し、その結果としてメディアの選別が起きるだけです。ネットと新聞は決して「原因と結果」ではありません。

何と言っても、新聞社の力は、編集の現場が担います。新聞あるいは新聞社の未来をデザインしようというときに、肝心の編集が動かないのでは話になりません。戦いになりません。地方新聞社の次の10年を考えるとき、編集が本当に本気にならないと完全にアウトです。

【質問(8)】地方紙は地域メディアの中でどの立ち位置に今の段階であるのか、そして今後の展望としてどの立ち位置にいくと考えられるかを伺わせてください。また、地方紙のほかに地域メディアを担っている、もしくは、これから担っていくと考えられるメディアがあれば教えて頂きたいです。

【答え】この問題に答えるには、地方紙に携わる人たちがデジタル社会あるいはネット社会に向かってどうしたいのかをまず問う必要があります。何度も繰り返しますが「世界観」です。地方紙の現場を支える人たち自身の問題です。誰の問題でもない。専門家らしき人を探し求めても駄目です。地方紙の多様性や地域の実情を踏まえたうえで具体的に提案できる力は誰にもありません。まず、自らの問題としてとらえ直し、インターネットやデジタルがどのようなものなのかを自らに引き付けて理解する必要があります。それと、いわゆるイノベーションについて理解し、企業体としての新聞社をテーマとして位置づけることから逃げてはいけません。

地方新聞社で育ててもらった関係もあり、個人的にも地方紙の将来はメーンテーマの一つです。新聞社を卒業し、フリーになってからは、ほとんどすべてのエネルギーをそのために割いてきました。だから、提案は幾つもありますが、今の地方新聞社の経営や現場の第一線は、イノベーション路線とは逆の方向に向かっているようなので、外部からいくら言っても恐らく無理なような気がしています。耳を傾けるつもりがなければ、外からもたらされるはずの情報がどんなにあっても届きません。そんなことを主張した有名な書籍のタイトルを思い出します。

奇跡がいますぐ起きて地方紙のリーダーがその気になったとしたら、参考にすべき人や発想は、地方紙の足元、自らがよって立つ地域から生まれることでしょう。今回のセッションの契機の一つとなった拙著「仙台発ローカルメディア最前線」は、そのことに気付いている人に真剣に読んでもらえれば、地方新聞社が向かうべき方向性がほのかに分かるように書いています。

ただし、書いてある事例や分析を単純に真似ようとしても駄目です。何かを絶対的、確定的な形で教えようなどと、頭の高い考えを抱いているわけではありません。読む人が自らの頭と手と足を使って動くための刺激リストのようなものです。ただし、あくまで「奇跡が」起きればの話です。どうでしょうか。

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